役者になれ

「ミュージカルのように演じられるようになりたいと思ってたんだ」舞台などの役者を目指している人の言葉ではありません。介護の仕事をする人のちょっとした栄養剤になったらいいなと思う言葉です。

 

恒例になりつつある年末のホームパーティーにて、大手ハウスメーカーで働いている学生時代からの友人とお互いの仕事の話をしました。

 

インテリアコーディネーターという仕事をしている彼女は、新築の家の壁紙や床材から、トイレやキッチンなどの水回りの機能などをお客さんと相談しながら決めていきます。1軒の家ができるまでにも、大工さん、建築現場を取り仕切る監督、お客さんに家を提案する営業などさまざまな人が関わり、ひとつひとつ順番に、お客さんの思いを形にしていくことで、マイホームは出来上がります。インテリアを決定するまでにも、お客さんと何度も打ち合わせを重ねていくため、ファーストコンタクトで、いかにお客さんの心を掴めるかが重要なのだと言います。

 

「先輩の作り出す世界にお客さんが引き込まれていて、打ち合わせがまるでミュージカルみたいで、そんな風に自分もなりたいと思った」

新人だったころ、先輩のお客さんとの打ち合わせに同行したときに衝撃をうけたのだそうです。

 

3年目になった今、「家の中でも、インテリアって一番目がつくところでしょ。壁や床の色が違うだけで、部屋の印象はグッと変わるし、コンセントの位置ひとつにしても生活の便利さは変わる。」自分の手で、お客さんの思い描くマイホームを作っているんだという実感が伝わってきました。

 

先日、後輩が彼女のお客さんとの打ち合わせに同行したときに「先輩(彼女)の打ち合わせは、ミュージカルみたいで、すごかったです」と感想を話してくれて、ようやく目標に近づいてきたことが嬉しかったと言います。

 

けれど引っかかったのが、なぜ、仕切り上手で話も上手い彼女が「演じる」のかでした。彼女であればそのままでも十分、接客をすることができるはずなのに。質問をぶつけてみると面白い事を教えてくれました。

 

「レストランで接客をしていた時や、学校の先生になるための教育実習で教わったことがあってね。『役者になれ』って。レストランでは、ホールに立つとお客さんに積極的に話しかけて、居心地よく過ごしてもらうようにする。そうすると注文してくれて、売り上げにもなる。普段はそんなことしなくても、仕事だからホールの人を『演じる』。学校の先生も、生徒の未来がかかっている仕事だから、適切な方向へ導くために、体調を管理する医者も、知識を与える学者も『演じる』」

 

なるほど。仕事をするというのではなく、その職業やなりたい姿を演じていたのか。

 

教えてもらうと、これは介護の仕事でも活かせる考え方だと気づきました。医療や福祉の仕事、そのなかでも特に介護は「いい人がする仕事」だと思われてしまっている気がします。介護職だと答えると「大変ね、きっと優しいんでしょうね」と。

 

ご利用者さんに対して優しくないわけではなく、必要なことを必要な形で支えているだけで、聖人ではないのです。少なくとも私は。それは仕事だからと割り切って接していることとも異なり、介護職員を「演じて」いるのだと思います。

 

私には見えないものが見えていたり、聞こえている認知症のご利用者さんの世界観をミュージカルのようだと思ったこともありましたが、私のなりたい介護職は、その世界にすんなりと入り込める名役者なのかもしれません。彼女ともう一人の友人がくれたアロマボトルの表面に張り付けられたガラスは光が当たると、角度によって虹のように色を変えます。それは、まるで七変化で表情を変える役者のようです。

 

演じたいのはそこに実体のない偽物ではなく、介護職のプロです。親切心や慈善で片づけることなく、知識や技術を鍛錬できたらそこにたどり着ける気がします。

(影山)