特養で働いていた時、よくこう言って心配してくれるご利用者さんがいました。
「若い女の子が、足首や手首を冷やしちゃだめだよ」と。
水を触る仕事の後など、腕まくりしたままの私が傍を通ると、必ず声をかけてくれていました。
「手首や足首が冷えると、体中を冷やしてしまうんだよ。私が子供の時は、元気な子供を産みたければ、身体を冷やしちゃいけないとよく言われたもんだよ」
腕まくりをしながら動き回っている私を気にかけてくれる優しい方でした。
時々、そっくりな顔をした大好きな息子さんが面会に来てくれて帰ってしまったあとには、気持ちが落ち込んでしまい、そんな時は昔飼っていた猫の“たま”を恋しがっていたりしました。
「たま、そこは危ないからそっち行っちゃだめだよ」
そのご利用者さんには、たしかに“たま”は見えているのですが、現実には見えない“たま”の話もよく聞かせてくれました。
もう1年、腕まくりをしても、半ズボンをはいても心配してくれるその声は聞いていないけれど、足首の隠れる長めの靴下を手に取ると懐かしくなります。「元気にしているかな」と、ご利用者さんたちのことを思い出して、思いをはせる時間が私は好きです。
(影山)