音声ガイドを知っていますか?(音声ガイドシリーズ第1回)

きっかけは河瀨直美監督の映画「」を見たことでした。視力が徐々に失われていく主人公と、新米ディスクライバー(音声ガイドを書く人)の交流を描いています。映画の中で音声ガイドをつけていく様子が映され、初めて見聞きする職業や映像を言葉で説明するということへの興味が湧きました。そして、たまたま音声ガイドについて教えてもらえる講座(日本初のユニバーサルシアターシネマチュプキ)に出会い、全4日間参加してきました。

 

音声ガイドとは、視覚障害のある人が音声だけでは把握しきれない映画の視覚的情報を言葉で補い、それをセリフの合間など映画本編の音声情報の邪魔にならないタイミングで挿入し、映画鑑賞を補助するナレーションのことです。そのナレーションを考える人は、“描写する人”という意味を持つディスクライバーと呼ばれています。いきなり想像するのは難しいと思うので、音声ガイドつきの映像を参考にご覧ください。

 

映画『ちょき』音声ガイド/日本語字幕つき(ユニバーサル上映版)冒頭6分

 

 

音声ガイドが初めて映画DVDに付録されたのが「グリーンマイル」(初回限定生産盤)です。最近では、音声ガイドが劇場公開時からついている作品も急速に増えてきましたが、過去の名作などはまだまだ音声ガイドを付けきれていないのが現状です。

 

実際の音声ガイドの制作過程はというと、映画の同じシーンを繰り返し見て、台本に音声ガイドをつけ、視覚障害のある方と先生とで検討するモニター会を経て、修正を重ね、台本を作り上げます。そして、ナレーターさんがその台本を元に音声を吹き込み、音声ガイドが出来上がります。

 

講座1日目は、音声ガイドを知る体験から始まり、実際に数分の映像に音声ガイドを付けてみる実践形式で進みました。初日の宿題として持ち帰った短編映画を見て、2日目と3日目は自己流でつけた音声ガイドを持ち寄り、先生の他にも視覚障害者のモニターを交えて、フィードバックをもらいます。そして4日目に音声ガイドを付ける際の基本ルールを学び、コメディや時代劇などバラエティに富んだ音声ガイドにも触れて終了します。

 

最初に基本的なやり方やルールを教えてもらうのではなく、まずは自ら考えてみるという学びの過程が斬新で、「何が正解か分からない」という不安を抱えながらも、「知りたい」という欲求も同時に高まっていくように感じました。

 

初日に映像を見ずに、10分間音声だけを聞く体験をします。一つひとつの音に耳を澄ませ、脳をフル稼働して聞いてみるのですが、想像以上に音声だけで映像を描くことは困難なものでした。セミの鳴き声や水が跳ねる音などの環境音に夢中になっていると、登場人物の会話を聞き漏らして話についていけなくなります。朝から昼への時間の経過や、室内から屋外へ場面が変わったことも分からなければ、「あれ」、「それ」などという代名詞が出て来るたびに、「あれってなんだろう?」と考えてしまいます。分からないことが多すぎて、後半はもはや聞いているのが苦痛にすら感じてしまうほどでした。

 

この体験こそが、視覚障害のある人が、音声ガイドのない映像を見ている時の状況と同じです。視覚的に伝えている風景や色彩、人の表情、動きなど、音声だけでは分からないものを感じることができて初めて、映画を楽しむことができるのだと、私はそこで再確認しました。

(影山)

 

第2回:見えていてもいなくても、同じタイミングで笑える に続く

 

写真:バリアフリー映画鑑賞推進団体 シティ・ライツ