感謝という大きなギフト

湘南ケアカレッジで働き始めて、3度目の春が近づいてきました。介護仕事百景を通して、介護の仕事を始める方も少しずつ増えてくる季節です。仕事探し中の生徒さんと一緒に施設を見学に行くと、卒業生の元気に働いている姿を見かけて、ほっと胸をなでおろします。綺麗なことばかりではなく、今は大変なことの方がむしろ大きく感じているかもしれません。それでも踏ん張って、続けてくれていることをひたすら有難いと思えます。

 

仕事を決めるということは、ひとつのライフイベントです。生活を支える意味においても、精神的な充実の意味においても、仕事を選ぶ基準は人によって違うのだと、多彩な考え方を持つ生徒さんと仕事を一緒に選ぶ中で教えてもらいました。

 

「今の職場、辞めようと思っているんだ」

 

てっきり、介護福祉士試験の報告をしに来てくれていたのだと思っていましたが、本題はそちらでした。思えば、彼女に出会ったのは3年前、私が最初に入口に立ち挨拶をしたクラス。まだ10代だった彼女は障害者の入居施設で夜勤もこなし働きながら、もちろん遊びにも余念がなく、初任者研修を1月に1回から2回のペースで受講していました。およそ2年かけて初任者研修をようやく修了してくれたかと思いきや、すぐさま実務者研修も申し込んでいたときには、先生ともども驚いたことをよく覚えています。

 

また1年ぐらいかけて受講する気ではなかろうかとの心配をよそに、実務者研修はひとつのクラスで通いきってくれたことにもまた驚きました。これだけ聞くとどこの不良娘かと思われる方もいるかもしれませんが、彼女が教室に入ってきたことがすぐに分かる大きな声や人懐っこく話しかけるガッツは、彼女の人となりそのもの。3年間も見ていると愛らしく思えてくるものでした。

 

彼女と相談し、希望に合った2つの施設を提案しました。第一希望の施設に見学に行き、さらには彼女の提案でボランティアもしてもらうことに。この慎重さからも、口では適当なことを言いながら、しっかりと自分に合った職場を見つけたいという彼女の内面の本気さが伝わってきました。

 

面接の日が迫ってくると「職務経歴書の書き方がわからないから教えてほしい」と、下書き中の履歴書を片手に、夜勤明けの眠たい目をこすりながら、彼女は教室に来てくれました。

 

学卒時と違い資格欄にも書くことが増え、少し立派になった履歴書ができあがり、面接への不安を時々にじませながら他愛ない話を交わしていると、思い立ったかのように彼女がこう言いました。

 

「次、働くことが決まったら、6年は働くよ」

 

3年が転職の節目だと思われている介護の仕事において、その2倍は働くとの意気込みに

「それはすごいね」と返すと、「そしたら少しは、ここの顔も立つでしょ」さらりと彼女は言いました。

 

たまたま彼女に背を向けて引き出しを開けていたところに、突如として飛び込んできた思いもよらない言葉に耳を疑いつつ、気づくとじわりと目頭が熱くなり、うっかり涙など見せないようにとしばらく背を向けたまま話を続けました。

 

彼女が感じてくれている恩義がそれほどのものだったとは、正直予想していませんでした。

 

その恩義は、もちろん仕事を一緒に探すという短い時間にだけ向けられたものではなく、初任者研修を受けるために初めてケアカレの教室にやってきたあの日からのケアカレへのすべてに対する感謝だと思うのです。

 

1対1でも一筋縄にはいかない主張の強い彼女だけではなく、他の生徒さんたちにも同じように目や心を配りながらの授業を想像するだけで、私は倒れそうです(実際に、彼女が参加した授業の後は先生方の甘いお菓子への手の伸び方が普段以上だったことも(笑))。授業の前後での声掛けや世間話も、3年という在学期間を考えると、先生方ひとり1人が相当な時間を彼女と共に過ごしてきてくれたのだと思います。過去にどこかひとつでも、粗雑な態度で接していたら、彼女が大きな恩義を感じてくれることなどなかったかもしれません。いつも変わらない細やかなコミュニケーションが積み重なり、感謝という大きなギフトを彼女はケアカレに贈ってくれました。

 

迎えた面接当日、自分が面接を受けるわけでもないのに時間が迫ってくるとドキドキと緊張してしまいました。終了から1時間ほどで、施設の担当者さんから電話が鳴り、「ぜひ採用させてください」との声を聞いた時には、つい「助かりました。よろしくお願いします」と、心の声が漏れ出るほどに安堵しました。

 

先生方や村山さんが関わってきたひとつ一つの彼女との出来事がつながって今日に至り、彼女を託したいと願えるゆかりのある施設に勤めることが決まり、これからも見守っていけることを、本当にうれしく思います。

 

多くの卒業生が働く職場で彼女がどんな介護士に育っていくのかと想いをはせます。

「ここの顔」などは気にしなくていい。きっと先生方もそう言ってくれるはず。ケアカレで学んだことはお守りとして心にしまっておいてもらえたら、先輩でもある卒業生が助けてくれたりするご利益があるかもしれない。なにより、心優しく、純粋なあなたの良さが絶えることがないようにと祈っています。

(影山)