介護職員初任者研修を受講中の生徒さん、または卒業生さんから、「介護タクシーを始めたい」と相談を受けることが多くあります。ここ10年ほどで増えてきた新しい業種ですし、知り合いで介護タクシーをしている人も少なく、なかなか情報が得にくいようです。そこで、介護タクシーを運転している湘南ケアカレッジ卒業生の堀之北さんにお願いして、これから介護タクシーを始めようと考えている卒業生の吉田さんを交え、介護タクシーのいろはを教えてもらいました。
メンバーの紹介
―こんにちは。今日はよろしくお願いします。それではまず、初歩的な質問ですが、「介護タクシー」と「民間救急」の違いから教えてください。
堀之北さん(以下、敬称略)
「介護タクシー」と「民間救急」はどちらも第二種運転免許が必要です。国土交通省の許可を得て、旅客自動車運送事業の指定を受けて行います。それに加え、消防庁で実施している患者等搬送乗務員講習を受講し、(車両や設備・人員の基準を満たして)登録すると、「民間救急」と名乗れるようになります。私の場合は「民間救急」の登録はしていないので、「介護タクシー」になります。ちなみに、「民間救急」に登録していると医療従事者として扱われます。
―どのように介護タクシーの仕事を始めていけば良いのか分かりません、という質問がよく来ます。堀之北さんはどうスタートしましたか?
堀之北
営業活動をしてみて厳しい現実も分かったので、私は今、グループとして活動しています。私以外にも同じ介護タクシーの仲間が10人くらいと、代表を務める人がいます。グループ内で依頼を受けた仕事をさせてもらえることで、町を走り、病院や施設に出入りする機会ができ、色々な人に知ってもらうきっかけになっていると思います。
―たしかに、グループとして仕事を始められると、安心ですね。
堀之北
よくあるケースですが、病院から団地の3階にある自宅への退院という依頼がありました。コロナ騒動の影響で今は以前のように病棟までお迎えに行けないこともあって、ロビーにお客さんが降りてきてくれました。「お客さまは歩行ができます」と伺っていたのですが、実際にお会いしてみる歩行は難しそうでした。息子さまも同行してくれていたので、まぁ大丈夫かなとタクシーに乗っていただき、自宅前まで行きました。「歩けそうですか?」とお客さまに確認しましたが、「いやぁ…」と難しそうな顔をされたので、息子さまに手伝ってもらい、車いすを3階まで持ち上げてお連れしたことがありました。
―町田は団地も多いですし、けっこうそのような依頼もあるのですね。
堀之北
そうです。エレベーターがあるのはありがたいですね。
―エレベーターがなかったり、団地や自宅前の階段が多いなど、介護タクシーを営業する地域によって差がありますね。
堀之北
町田はエレベーターのない団地などが多いです…。
―町田以外の地域への移動などの依頼もありますか?
堀之北
ありますよ。町田を出発して都内の病院へ行ったりすることもあります。
―車での移送だけでなく、階段などの介助もするのですよね?
堀之北
そうですね。ケアカレが入っているビルの階段みたいなのは介助しやすいですよ。明るくて、広くて、足元が濡れていないから。
―暗くて、狭い階段は介助しづらいのは分かりますが、濡れている階段も介助しづらいのですね。
堀之北
屋外の階段で足元が濡れていると、車いすのタイヤや介助者の靴底が滑って、介助しづらいです。お客さまの体重にもよりますが、お客さまが車いすに座った状態での階段昇降は、怖いときがあります。車いすだけでも15kgぐらいは重さがありますからね。
お客さまによっては、(タイヤを転がしながら階段を)降りられない車いすに乗っている方もいます。たとえば、タイヤが6つや8つあるタイプの車いすは、車いすの構造的に(タイヤを転がしては)降ろせません。段差を超えるのも難しいです。車いすを傾けようとすると、補助輪(タイヤ)が邪魔をして、上手く車いすが上がらないからです。ちなみに、車いすの後輪のタイヤが大きいほどやりやすいですし、また空気が少し抜けているぐらいの方が階段に食い込んで安定します。
堀之北
タイヤを転がして階段を降ろせない場合は、グループの誰かを呼んだり、利用者の家族に手伝ってもらったりして、車いすを持ち上げて降ろすことになります。車いすの前と後ろを持って、車いすの四輪が宙に浮いた状態での降ろし方を、私たちの間では“丸持ち”と呼んでいます。(車いすを)丸々持って、浮かさないと降りられない、段差も超えられないようなケースのみ、“丸持ち”をします。
車いすに座ったままの階段昇降の動画
堀之北
こうした移動介助もあるので、車いすの重量も考慮に入れて、前後15㎏ぐらいの誤差をイメージしてお客さまの体重を計算していますね。
―お客さまは重く伝えてしまって来てもらえないと困るから、低く見積もってしまうこともあるのでしょうか。
堀之北
そうかもしれません。あと危険が伴いそうな介助は、1人で迎えに行かず、2人で行くようにしています。
―事前に聞いている情報から、2人で行く必要があればもう1人介助者をお願いして、1人で大丈夫そうだったら1人で行くということですか?
堀之北
そうですね。
―その際の介助者料金はどうなるのですか?
堀之北
もう一人分の介助者料金はお客さまから頂きます。
―町田市の相場ですと、介助者料金はいくらぐらいになるのですか?
堀之北
私のところは、2名で3,000円ぐらいから(階段を2名体制で昇降する料金として)頂いています。1人で介助した場合は、また別の料金体系になります(500円~)。私が(グループの他の人の仕事を)助けにいくこともありますし、逆に助けてもらうこともあります。
―2人で3,000円ぐらいですから、1人1,500円ぐらいずつの利益になるのですか?
堀之北
いいえ。たとえば3,000円だとすると、助けに来てくれた人に全額の3000円を渡します。
―料金の話を続けて教えてもらいたいのですが、普通のタクシーは予約して、迎えにきてもらうと迎車料金がかかりますが、介護タクシーではどうなりますか?
堀之北
私のところですと、お客さまの目の前に着いた時点で実車メーターを入れています。もう少し詳しく説明すると、相模原市の病院を退院して、町田市内の自宅に戻りたいという依頼があったとします。その場合、病院の駐車場でタクシーメーターを押します。それから病棟まで上がりお客さまを迎えに行って、その間はずっとメーターを回しています。お客さまに車いすやストレッチャーに乗って頂いて、また駐車場に戻ってきて、車に乗って頂きます。そして自宅の駐車場に着いて、メーターをそのまま回したまま、ベッドの上に移乗したり、「そこでいいよ」とお客さまが言うところまで介助させてもらい、最後に車に戻りメーターを止めて、会計になります。
―次は物品について伺いたいのですが、お客さまが車いすを持っていない場合、貸し出しをするとレンタル代はかかりますか?
堀之北
私たちの場合は、普通の車いすはレンタル代を頂きません。リクライニング型車いすは2,000円/回、ストレッチャーは4,000円/回を頂いています。
―やはり家族だけでは、通常の自家用車に車いすでは乗れないですし、自分専用の車いすも持っていなかったりしますよね。それでも移動したい時に、介護タクシーさんにお願いするのですね。車いすなどのレンタルや移乗、移動をセットで引き受けてくれるなら助かりますよね。車いすの他によくレンタルされるものはありますか?
堀之北
医療用酸素があります。私は持っていませんが、グループの他の持っている者から借りています。
―どれくらいの人が医療用酸素をレンタルしますか?ごく稀ですか?
堀之北
ごく稀でもないですね。たまにあります。
―自家用の酸素を、お客さまは持っていないのですね。
堀之北
持っていないこともあります。以前の案件で、病院から病院への転院だったのですが、酸素は使っていないとのお話でお迎えに行ってみると、酸素が必要なお客さまでした。そのときは酸素を病院でお借りして、後で返しに行きましたよ。
―話は少し逸れますが、堀之北さんはもとからこういう仕事をしたかったのですか?
堀之北
車に乗ることが好きで、実は私、幼稚園の時の卒業アルバムに「タクシー運転手になりたい」って書いたのですよ。
―すごい!夢を叶えちゃったのですね。
堀之北
そうですね。車に乗るのは子供のころから好きでしたね。
―制服は今、着ていらっしゃるケーシーが仕事着ですか?
堀之北
はい。介護タクシーを始める時にどういった服装をしたらいいのかな?と思ったのですが、グループの者のところで研修で乗せてもらったときに、病院へご家族も同乗していました。やはりこのようなケーシーを着ていると介護・医療職として認知されているのか、私は看護師さんの元まで私たちは行けたのですが、普段着のご家族は止められていました。その時、こういったケーシーを着ないと介護・医療職として認知されないなと思いました。
―普通のタクシーのドライバーさんのような服装で行った方が良いかと思いきや、介護・医療職っぽい服装の方が良いのですね。
堀之北
まぁ、病院のなかでは他の患者さんから病院の人だと間違えられますけどね。けっこう間違えて声を掛けられるので、そういう時は「この病院の者ではないので…」と話したりします。ケーシーを着ていると、やはり違いますね。
―ズボンはどのような物を履いているのですか?
堀之北
ズボンは普通の綿パンツですね。茶色とかベージュとかの方も多いですけど、私はベージュとか着ると太って見えるので(笑)、黒とか紺にしています。
―服装も意外と重要だったりするのですね。耳に着けているのは、ハンズフリーイヤフォンですか?
堀之北
そうですね。運転しながら電話を持っていると道路交通法違反なので、仕事中はスマホと繋げています。階段の昇り降りとかしている時に、電話がかかってくることもけっこうあるのですよ。でも、やはり電話は出なければならないので、落ち着いたところで出て、後でも大丈夫そうなら「折り返し電話しますね」と伝えます。電話がかかってくるタイミングは選べませんからね。
―仕事の依頼だから取らないといけませんよね。あと、そのショルダーバッグの中身はなんですか?
堀之北
これはクレジット決済の機械です。スマホも予備の1台と計2台持っています。あとは、カードの利用明細を出す機械に、ペンが4本です。最近は暗証番号を押してもらう形のカード決済なので、ペンはほとんど使っていませんが。支払いにはカードも使えます。そういう便利さは、お客さまから求められていると思います。
―でもカードって手数料かかりますよね?
堀之北
かかりますね。でもいろいろ話を聞いて、私は導入しました。現金で支払われるケースももちろんあります。クレジットカードの手数料は3%ちょっとなので、お客様の利便性も考えると、それほど大した金額ではないのかなと思いますね。
―その手数料はお客さま側に、上乗せはしないのですよね?
堀之北
はい。手数料はこちら持ちです。今はキャッシュレスが流行っていますよね。私もPaypayとauPay とd払いを使えるようにしました。やはりPaypayは今月とても使われますね。(町田市でキャンペーン期間中でした)
―Paypayを使う人が結構いるのですね。
堀之北
いますね。私も使っています。
―利用してもらえるようにするには、申請をしないといけませんよね。
堀之北
そんなに大変ではありませんでした。すぐできます。キャンペーンをやっているときは、使えるかどうかの問い合わせが多いですね。最初、施設からの依頼だったのですが、前もっての依頼だったので念のため前日に確認の連絡をしたんです。たまに入院が長引いていて依頼がキャンセル…なんてケースもあるので。そのときに「ちなみにスマホはお持ちですか?Paypayとかやっていますか?」と聞くと、「今日登録して、チャージはしたんだけど使い方が分からなくて…」と仰るので、「もしよかったら、キャンペーン期間中だから使ったらお得だから使い方をお教えしますよ」と話して、当日支払いの際、7000円ぐらいの支払いで1000円ぐらいポイントが付きました。「こんなに簡単なのね」と喜んでもらえて、伝えて良かったなと思いました。40~50代の方だとPaypay使われている方多いので、「今月はキャンペーンをしていますよ」って話はしますね。やっぱり1000円分でも大きいのでね。
―お客さま的にはポイントが付くと嬉しいですよね。それがまた次の仕事につながれば嬉しいですよね。
堀之北
お客さまと話すときには、「Paypay使っていたら、今月は使った方が良いですよ」と話しています。
―そういった気遣いも大事ですよね。そのような工夫で少しずつお客さまが増えてきたのだと思いますが、介護タクシーを始める際には、最初は営業活動をしましたか?
堀之北
両親に協力してもらって、ビラ配りをしました。地域の電話帳にも載せてもらいました。
―ビラ配りは一般のお宅のポストに入れたのですか?
堀之北
そうですね。そのチラシを見て電話がかかってきたのは、2~3件くらいでしたね。
―ビラは何枚配ったのですか?
堀之北
1,000~2,000枚くらいですね。まぁ、私もチラシが入っていても見ずに捨ててしまいますし、たまたまビラを見た時に介護タクシーを探していたという奇跡的なタイミングでないと利用には繋がりません。
―いざ介護タクシーを始めても、お客さまをどう集めたらいいのか分からず、不安な方も多いと思います。
堀之北
私もそうでしたが、最初はやはり片っ端から施設や病院、居宅介護支援事業所をリストアップして、そこのケアマネジャーさんやケースワーカーさん(病院や施設で退院などの調整をしてくれる相談職)にアポイントを取って営業に行きましたが、やはり皆さんお忙しく時間を取ってもらえないこともありましたね。もともと懇意にしている介護タクシーもあるでしょうしね。大きい病院など規模が大きければ大きいほど、「いつも同じ介護タクシーを使っていますので…」と言われることがありますね。なかなかそういった繋がりには入って行きづらいのかなと思います。
堀之北
私が聞いた話では、病院からの介護タクシーの依頼の電話にたまたま出られず、折り返しをすると、もう他の介護タクシーさんで決まってしまっていたなんてこともあるみたいです。そういう話を聞くと、やはり病院側もいくつも介護タクシーの当てを確保していて、A介護タクシーがダメなら、すぐにB介護タクシーという感じで連絡しているのでしょうから、厳しいなぁと思います。認知してもらうという意味では、営業活動も必要だとは思いますが、それだけではなかなか軌道に乗せていくのは難しいのかなと私は感じました。
―介護タクシーの依頼は、個人の方、病院、施設、居宅介護のどこから依頼されるのが一番多いですか?
堀之北
私が受けているなかでは、施設と病院ですかね。一度私の介護タクシーを使ってもらって、その後また個別にリピートで依頼してくれる方もいますね。
―リピーターの率が高いですか?それとも1回だけ利用のお客さまの方が多いですか?
堀之北
どうだろうなぁ…。あまり数えてはいないのですが、1回だけの利用のお客さまの方が多いかな。3割ぐらいがリピーターのお客様ですね。
―では、7割ぐらいは今回初めてという方が毎日続くのですね。
堀之北
そうですね。
―リピートが7割ぐらいのイメージでした。意外と違いました。
堀之北
個人からの依頼はリピートが多いのですが、病院からの依頼の場合は新規のお客様が多いですね。
―病院からの依頼のケースですと、「この人にお願いしたい」という指名よりも、ランダムに依頼しますよね。お客さまから直接の依頼だと、「この人にお願いしたい」みたいなのが多くなるのですね。
堀之北
私はそう感じています。
―お客さまも高齢だと自分で電話をかけて介護タクシーをお願いするって難しいですね。初めての方は何を見て依頼してくれるのでしょうか?
堀之北
お客さまのご家族が、町田市のホームページを見て電話してきてくださることが多いですね。
―市のホームページで介護タクシーが調べられるのですか?
堀之北
調べられますよ。一覧表になっています。
―それってどうやったら載せてもらえるのですか?
堀之北
町田のバリアフリーマップ
(https://barrierfree-machida.com/cgi-bin/DBsearch.cgi?S01=%8C%F0%92%CA%81E%88%DA%93%AE:%83%5E%83N%83V%81%5B%81E%89%EE%8C%EC%83%5E%83N%83V%81%5B&S02=all&S03=all&C_name=%96%DA%93I%95%CA%82%C5%82%B3%82%AA%82%B7)というサイトがありまして、市のホームページと連動しています。私はせりがや会館の中にあるハンディキャップ友の会へ、「介護タクシーを開業したのでお願いします」という風に話しに行きました。
―それを見て問い合わせてくれるご家族も稀にいるのですか?
堀之北
そうですね。あとは住所が載っているので、「近かったから」と言ってお願いしてくれました。
―車は仕事用とプライベート用で分けていますか?
堀之北
分けていますよ。仕事用の車は仕事だけで使っています。
―車種は何ですか?やっぱりハイエースですか?
堀之北
いいえ。私はヴォクシーです。
―改造してもらわないと車いすが乗らないですよね?
堀之北
そうですね。TOYOTAでほとんど純正で改造してもらいました。3列目のシートを2つとも外しています。タクシーのナンバーでも3ナンバーと5ナンバーと8ナンバーがあるのですが、保険の金額が全然違います。
―ヴォクシーは通常だと3ナンバーですよね?
堀之北
そうですね。改造すると、8ナンバーになります。保険の金額聞いたらびっくりするくらい違いました。
―そんなに違うのですか?
堀之北
私は最初、3ナンバーで取ろうと思っていたのですが、保険が年間50万円ぐらいって言われました。8ナンバーだと10万円ぐらいです。
―大きく違いますね。改造した方が、保険は安く済むのですね。
堀之北
私もそこは不思議に思っています。年間40万の差って大きいですよ。
―それは始める時に知っておいた方がいいことですね。
―ヴォクシーってストレッチャーも乗せられますか?
堀之北
乗りますよ。同乗するご家族がいたら、2列目のもう一席に座ってもらいます。
―街中を走っている介護タクシーを見ると、ハイエースが多いように思いますが、ヴォクシーとかミニバンって珍しいですか?
堀之北
珍しくないですよ。もちろんハイエースとかも走っていますが、ハイエースって車高があるのでそれが利点でもあるけれど、町田だと高さ制限にひっかかるところがあります。ヨドバシカメラの裏にある横浜線のガード下とか、あれは1.9メートル制限なのでハイエースだと通れません。ヴォクシーまでだったら入れます。そういう道がたまにありますね。
堀之北
ハイエースの良さもあります。ハイエースは人がたくさん乗れますし、点滴スタンドや酸素がついていても、ストレッチャーも普通に載せられます。
―ヴォクシーには点滴スタンドを縮めることなく、そのまま載せられますか?
堀之北
そのままは載らないので、高さを縮めて載せます。
―どちらもメリット、デメリットがあるのですね。ハイエースだと運転も難しそう。後ろがよく見えないし。ヴォクシーまでだったら見えますよね。車種は自分の営業する範囲に合わせて、選ぶ方が良いのですね。
堀之北
そうですね。一番良いのは、ハイエースとミニバンの両方持って、使い分けるのがいいですよ。狭い道をハイエースで入ってしまったら、出るのが大変ですし。2台持っている人は、行先やお客さまの状態などの依頼に応じて使い分けをしていますね。
堀之北
車はヴォクシーで始めるのですか?
吉田さん(以下、敬称略)
そうですね。今、車屋さんを巡っています。初期費用も心配ですよね。だいたい予算は350万円ぐらいで考えています。
堀之北
私はもう少しかかりましたね。プラス50万円ぐらいでした。
吉田
それは車にもう少しお金をかけたからですか?
堀之北
そうですね。冬場の雪が怖くて四駆にしたので…。四駆って高いのですよね。その分だと思います。
吉田
四駆にしておいて良かったですか?しなくても良かった?
堀之北
ん~。この辺の介護タクシーで、四駆ってなかなかいないですよ。雪が降った時はもちろん四駆の方が良いですけど、それ以上に四駆は台数が少なく、不具合が出やすいと感じたりもするので、もし次に買うとしたら四駆はやめておこうかなと思います。
堀之北
地域性にもよると思いますが、この辺り(町田)でしたら四駆まで買う必要はありませんね。本当はもっと(初期費用を)安くおさめたいのですが、(中古車を)いろいろ見ていたら、4~5万キロ走っていて6年落ちとかで、それを買ってあちこち直して余計にお金がかかってしまうのなら、1万キロぐらいの車で2年落ちぐらいの車を買うぐらいの方がいいのかなと今は考えています。
―(介護タクシーを始めるのに)新車と中古車とどちらを買う人の方が多いですか?
堀之北
私は新車を買いました。最初は新車じゃなくてもいいと思います。
―それはどうしてですか?
堀之北
最初はやっぱり車をぶつけてしまうからです。修理代もだいぶかかりました。慌てているときや焦っているとき、団地とかに停めていて、クラクション鳴らされて、焦って動かしたら「ドーンッ」とぶつけたりとか…。
―そういうことも起こるから、新車じゃなくても良いのですね。
堀之北
そう。新車じゃなくてもいいです。
吉田
車屋さんで「なんでこんなに介護タクシーの車が売っているの?」と聞いたら、「始めて1年くらいで辞めてしまう人もいるからね」と返ってきました。
堀之北
そうですね。厳しいときもケースバイケースでありますけどね。でも続けることで経験も積めていきます。
―やっぱりそのような短い期間で辞めてしまう方もいるのですか?
堀之北
私が知っている限りでは、あまりいないですね。
―実際の病院や施設からの依頼は、どのようなタイミングで来るのでしょうか?
堀之北
病院や施設からの依頼って、前日とか当日急に電話がかかってきます。今日も短い距離の移動でしたが、昨日の夕方に入った依頼で行ってきました。
―前日になってみないと明日の予定が分からないし、当日になってみると予定していた仕事と違ったりすることもあるのですね。
堀之北
運行している最中に依頼の電話が来ても、どうしても行けないケースもあります。グループで活動していると、そうした時に他の人が代わりに行ってくれたりします。逆に他の人に依頼が来ても予定がいっぱいで、私が空いていたら「今から行ける?」と電話が来ることもあります。だから私は、グループの誰に電話がかかってきても良いと思っています。
―受け皿が広い方が良いということですね。
堀之北
そうですね。仕事を始める時に、1週間くらいグループの代表の車に乗せてもらい、階段や状態の重篤な方の搬送であったり、いろいろなケースを見ました。自分で運転する時も、その経験があるのとないのとで違ったと思います。それまで私は介護の経験もなかったので、やはり壮絶というか大変なケースも目にしました。
吉田
ちなみに、お客さまに中国人の方っていますか?
堀之北
中国人の方は、まだ乗せたことはありませんね。フィリピンの方はいました。ご家族もフィリピンの方で、話の内容とかもあまり分かりませんでしたが…。
―吉田さんは中国語が話せるから、そういった層の人に利用してもらえたら便利ですよね。でも、あまり介護タクシーをしていて、中国語が話せるからといって便利なことはあまりないのですね。グループの中に女性ドライバーは何人くらいいますか?
堀之北
女性のドライバーは20人中4人くらいですね。運転手としてではなく、介助員として乗るケースもありますね。他には病院内での付き添いもあります。付き添いでは、車いすを押したり、受付を代わりにしたり、診察してもらって、薬局で薬をもらいに行ったりします。
―そういうことをドライバーさんはやらないのですか?
堀之北
ドライバーがやるときもありますが、依頼が多くてドライバーが忙しいときはできないので、ドライバーはドライバーで運転をして、付き添いの方は別にしていないと間に合わなくなってしまいます。
―では、病院に着いたらお客さまと付き添いのヘルパーさんを降ろして、ドライバーさんは離れてしまって、また次のお客さまの仕事に入るのですね。
吉田
その時はヘルパーさんの時給が必要になりますよね?それは1時間当たりですか?
堀之北
2名での介助料で3,000円いただいますが、私はヘルパーさんに3,000円/hをお支払いします。
吉田
それは時給が高くて良いヘルパーですね。やってみたいな。20人中4人ってけっこう女性ドライバーもいるのですね。
―お仕事は、何時ぐらいからですか?
堀之北
今日は、朝のお迎えが8時半の仕事から始まりました。グループの者だと今日は一番早い人で6時にお迎えに行っています。
―6時に?病院はまだ開いてないですよね?
堀之北
町田から都内の病院への通院の依頼で、6時にお迎えに行って病院に着くのは7時半ごろです。私も6時半お迎えとか行ったことがありますが、夏よりも冬はきついです。
―朝早い依頼は通院が多いのですね。
堀之北
そうですね。「8時前には病院に着きたい」って言われると、都内の病院とか行くとなると早いお迎えになりますね。
―仕事の終わりは何時ぐらいになりますか?
堀之北
16時であったり、まちまちですね。最近はコロナ騒動の影響でそんなに忙しくないので、お昼過ぎに終わってしまうこともありますね。
―コロナ騒動でやはり仕事は減っているのですか?
堀之北
皆さん病院に行くことを控えていらっしゃいますね。当たり前かもしれないですが。
―病院を控えるということは、通院を控えていらっしゃるのですか?
堀之北
そうですね。通院を控えて、薬だけ家族がもらいに行ったりしています。
堀之北
私たちはコロナ陽性の方の搬送はしないのですけど、退院の方はいます。退院も検査で陰性になってから退院するケースと期日が来たから退院するケースがあります。
吉田
そういう依頼が来たらどうしたらいいのでしょうか?
堀之北
私たちは退院のどちらのケースも依頼を受けています。どちらのケースも行ったことがありますが、陰性退院の時は通常料金で、(今はほとんどありませんが)期日が来たから退院のケースは私たちも怖いので完全装備の防護服を着て、その防護服代をお客さまにいただきます。上から下まで防護服を着て、帽子を被って、フェイスシールドをして、そういうケースも稀にあります。
―ちなみに期日が来ての退院の場合、金額はどのくらいになるのですか?
堀之北
車の消毒代なども含めて、3,000円以上をプラスで頂くようにしています。PCR検査に行くための移動の依頼とかも、防護服を着て行くので同じですね。
―他にも防護服を着て対応するケースってあるのですか?
堀之北
今はPCR検査に向かう時、あとは発熱がある場合が多いです。防護服を着て、加算をいただいて行っています。やっぱり万が一ってことがあるのでね。
―仕事は土日が休みになるんですか?
堀之北
土曜日は、午前中病院が開いているので動く時もありますね。
―では病院の営業日と働く日がつながっているのですね。病院から自宅とか、病院から病院とか、施設から病院とか、病院が絡んでくる仕事がやはり多いのですね。
堀之北
そうですね。今このようなご時世なので、自宅に帰るだとか食事に出かけるとか、病院や施設から一時外出はあまりありません。そのような一時外出が年末年始とかお盆とか今まではかなりありましたが、少なくなりました。
―以前はそのような大型の休みや土日に、そういった一時外出とかの依頼があったのですね。本当に必要なときにしか使われなくなっているのですね。それは介護タクシーにとっては、逆風ですよね。
堀之北
そうですね。それは逆風ですね。でも、コロナ騒動によって考える時間はたっぷりできたので、新しいサービスを考えたりと、やる気になれば、(新しいチャレンジを)する時間はありますよ。
―介護タクシーを始めていくときに、どれくらいのスパンで初期費用(350万ぐらい)を回収していけるのかどのように予定していて、実際はどうでしたか?
堀之北
車代は6年ぐらいで償却していくものだそうです。だから、350万だと60万円ずつぐらい年に償却していきます。まぁそれぐらいがちょうどよい金額というか。それぐらいに考えておいた方がいいかと。6年ぐらいで、車の購入費は取り戻せるぐらいかな。いろいろな考え方があります。
―350万円ぐらい投資して、最初マイナスだったところが6年ぐらいかけてプラスマイナスゼロに持っていく感じ。車代金に関してはですね。それ以外のものは自分のお給料として、それはいくらになるかっていうのは月によっても違ってくるし、走れば走るだけプラスにはなっていきますね。
吉田
毎月車代として5万は回収したいとして、車検代とか修理費とか積み立ても含めると月10万円は車にかけるお金として考えたい。自分の給料はパートの時と同じぐらいの月15万円ぐらいあればいいかなと。そうすると、月20万円~30万円ぐらいは稼ぎたい。それは実際どうでしょうか?
堀之北
正直に言うと、最初はけっこう厳しいかもしれません。でも年数が経ってきたら皆さんにも認知してもらえるようになって、色々なところから電話をもらったりするようになるので、最初さえ乗り切ればって感じだと私は思いますね。
―知ってもらうことで、段々と軌道に乗ってくるってことですね。
堀之北
最初は大変というか、それくらいに思っていた方が事業をする上で良いと思います。
―介護職の仕事だと、3か月たったら独り立ちして、1年経ったらもう一人前で色々なことができるようになっているイメージですが、介護タクシーはどうですか?
堀之北
私は5年やっていますが、まだまだだなと思っています。
―どういったところがそう感じますか?
お客さま宅って階段が多いので、担架で担ぎ上げて自宅に上がるケースもありますし、そこはまだ私は経験が足りないのかなって思いますね。ケアカレの階段ぐらいあれば広いですが、もっと狭い階段を担架で上がるというケースも稀にあります。
―そういった技術面もそうですし、皆さんに認知してもらうって面からも1年ぐらいだといかがでしょう?
堀之北
ん~。どうなのでしょうねってところですね。
―商売を自分で始めるわけだから、月にお給料が〇〇万円って感覚ではないんですよね。仕事がなければゼロだし、あれば月100万はいかないかもしれないけど、そこは人によって全然違ってくるでしょうし。まぁ、やっていれば皆さんに知ってもらえるようになって、最初よりはだんだん良くなっていくことは間違いないけれど、人によってその幅が違うんですね。今月は10万稼ごうと思っても、稼げないこともあるし、思ってなくても稼げることもあるしってことですね。
―ノウハウもあるし、知ってもらって、良いサービスを提供していけば、それはそれでどんどんプラスにはなっていく。でも軌道に乗るには、少なくとも1年くらいはかかるでしょうし、経験的には5年経ってもまだまだっていうくらい奥が深いってことですよね。
堀之北
そうですね。本当にお客さまはいろいろな方がいます。毎日いろいろな人と話ができるのは、私は楽しいです。介護タクシーを始める前は、「車の運転だけできればいいのかな」と思っていましたが、車の運転ができるのは当たり前というか、できて当然というか、それ以上にコミュニケーションだったり、介助の仕方であったり、そっちの方が大切だと思います。介護タクシーを始める前と後で一番の変化は、やっぱりコミュニケーションですね。お客さまともそうですし、ご家族さまともそうです。
―一期一会のお客さまであっても、コミュニケーションは求められることですか?
堀之北
えぇ。そうですね。「どちらにお住まいですか」とか、転院とか通院されるケースでも、もちろんそれだけで終わってしまうこともありますけど、私はなるべくお話しようと思っています。依頼は長い距離も、短い距離もあります。業務内容レベルの会話で終わってしまうこともありますけど、なるべく会話をしようとしています。