「小平さん、居酒屋を開くときには赤ワインを頼むよ」
「そうですね、花井さん。ワインと言ったら赤ですよね」
ワイングラスよりも熱燗で辛口の日本酒をおちょこからすする姿が似合いそうな利用者の花井さんと、花井さんの息子ほどの年齢に見える介護職員の小平さん。
施設で催される居酒屋レクリエーションのお酒をリクエストするこの会話が、親子とは違った、大きく年齢の離れた先輩と後輩の関係のように見えました。
片瀬海岸沿いの道路に面した特別養護老人ホーム鵠生園には窓が多くあり、海という1日として同じ様相のない自然の景色が食堂や居室に添えられています。
江ノ島をこれほど近くに見ることができる特別養護老人ホームは他にはなく、海が好きな人であれば、これ以上ない職場環境です。ご利用者さんが暮らす居室の窓からはもちろんのこと、屋上からも視界をさえぎられることなく海を一望できるパノラマが広がっています。
鵠生園の歴史は44年前にさかのぼります。
認知症になったら精神病院に入院という医療対応がとられるのが常識の時代において、精神科医の故上村安一郎氏は医師として患者さんと関わる中で、“生活”という福祉の観点も必要だと考え、現在では当たり前となっている“医療と福祉の融合”を構想し、特別養護老人ホーム鵠生園を設立しました。
当時そういった取り組みは珍しく、国のモデル事業にもなり、多くの研修生が訪れました。そして、日本各地に上村先生の考え方が広がっていきました。
「最初に開所したのが鵠沼の商店街の並びだったためか、地域住民の方々が、長きにわたってさまざまな形で関わってくださっています」
また、シーツ交換やタオルたたみなどはほぼ、近隣に住むボランティアの方々が引き受けてくださるというのも、古くから知る仲ゆえでしょう。
「あなた達がいつも笑顔でいれば、入所者の方々もそのご家族も笑顔になる」と上村先生は職員に対して語り続けていたのだそうです。
まるでご自身が上村先生から直接聞いたかのように、鵠生園の成り立ちを小平さんは私や新たに働き始める職員さんに説明してくれます。
「実は私は上村先生に実際にお会いしたことはないのです」
最後にあった思わぬ種明かしに驚きつつも、つい聞き入ってしまった歴史や想いは、このように人から人へと伝えられ、繋がっていくのだと感じました。
どのご利用者さんにも施設で迎える初めての夜があり、迎え入れる職員もまたその度に学び、自らの引き出しを増やしていくのだと溝口さんは教えてくれました。
外は暗く陽が落ちてきたのに、お迎えの人も家族も現れないと分かったとき、
「泊まるなんて聞いていない。私は家に帰らないといけないんだよ」
ご利用者さんは、こう職員に不安を訴えるのです。
介護職員であれば、一度や二度聞いたことがある程度の経験ではない、お馴染みのフレーズ。聞いて喜ぶ人はいないはずです。
「帰りたいと言われても、帰っていただくわけにはいかないですし、ご利用者さんひとりでは家にたどり着くこともできないのだからと、放置しておいてよいはずもありません。
さらに、帰りたいと不安に思う気持ちは、他のご利用者さんにもあっという間に伝染してしまう大きな影響力を持っています。そういった時に、『ずっとここに住みたい!』と手放しに喜んでもらえはしなくても、『今夜は泊まっていってもいいかな』と、気を許してもらえるようにしたいなと思っています」
介護の仕事を続けていくと、綺麗ごとだけでは語りつくせないこのような葛藤と駆け引きの瞬間があります。
「何がきっかけとなるかは分かりませんが、『じゃあ、泊まってもいいかな』って言ってもらえた瞬間、『よっしゃ』と、心の中でガッツポーズです」と溝口さんは、嬉しそうに話してくれました。
統括主任の小平さんの介護の世界は、ひとつの気付きがはじまりでした。
「大学時代は教師を目指していたのですが、その夢は叶わず、そこで改めて自分にできることはなんだろうと自分自身を見つめ直しました。そこで、気が付いたのが“自分は他の人に比べ、人のお世話が好き”ということでした。そういう自分が働き続けられる職場として、介護が頭に浮かびました。その時がちょうど2000年。介護保険が始まった年でした。世間の流れにのってヘルパー2級の資格をとって、介護施設で働き始めました」
「おばあちゃんに可愛がってもらったからとか、高齢者の役に立ちたいと力強く語る人に比べると、介護の仕事を始めようと思った自分の理由は月並みだなぁと思ってしまいます」
志高く介護の仕事を始める人と比べて、なんだか気後れしてしまう感覚は私も身に覚えがあります。なぜか介護や福祉の仕事に携わる人は、人のため世のために働く善き人でいないといけないといった世間の目があるように感じてしまいます。
大きな理由がないと関わってはいけないかのような声なき声が聞こえてきたりします。もしかすると、それこそが思い込みなのかもしれませんが、全てが私の思い込みではないはずです。
小平さんの親しみやすく丁寧な物腰のおかげで、少しお手伝いをしてもらいたい時にも
「すみませんが、ちょっとこちらを支えていてもらえませんか?」と、自然にお願いすることができました。小平さんには相手を緊張させない雰囲気があり、それも相手に対する優しさのひとつだと感じました。
“人のお世話が好き”という自分の強みを生かそうと介護の仕事を選ぶことも、立派な選択です。どんな小さな理由でも、そこから介護の仕事が思いつくのであれば、臆することなく、始めてみればいいと思うのです。
取材の最後に必ずお聞きしている質問を、小平さんにぶつけてみました。
「鵠生園で一緒に働きたいなと思う人はどんな人ですか?」
ありがちな質問を予感していたかのように、少しためらった後
「人柄ですかね・・・」と、返してくれたところに、そのもっと奥を見せてもらおうと
「その人柄は具体的にはどういう人ですか?」と尋ねると、
ある方の受け売りですが、私自身とても感銘を受けている表現があって・・・と、前置きをして
「委ねられる人でしょうか。自分がもしご利用者さんだったら、『この人になら自分の身を委ねられる』と思える人と一緒に働きたいと思っています」と答えてくださいました。
鵠生園をあとにし、江ノ島の海を横目に歩く道すがら、“委ねられる”という言葉が、ずっと頭の中をめぐっていました。
ひょっとしてこれは、他の視点からも言えることとして小平さんは語ってくれたのではないか。
ご利用者さんのご家族からすると、自分の大切な家族の介護をお願いできるかという意味にもなります。一緒に働く同僚同士であれば、ご利用者さんの介助をしてもらいたいと思えるかどうか、手元にある仕事をお願いしてやってもらいたいと思える人かどうか。
どの立場においても、“委ねる”ということにおいて、相手を選ぶのです。さまざまな人の「委ねる」という気持ちから関係は作り上げられていきます。「委ねる」とは単に身体的なものだけではなく、必ず心も伴っています。むしろ私たちが目を向けるべきは、そういった心を委ねてもらうことなのではないでしょうか。
施設・事業所名称 | 社会福祉法人 上村鵠生会 特別養護老人ホーム鵠生園 |
サービス形態 | 特別養護老人ホーム、デイサービス |
勤務場所 |
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-7-9 |
最寄り駅・アクセス |
小田急線片瀬江ノ島駅から徒歩6分 |
募集職種 | 介護職員 |
雇用形態 |
①常勤職員 ②嘱託職員 ③パート |
仕事内容 |
片瀬海岸沿いに位置し、屋上からは江ノ島を一望できます。特別養護老人ホーム、デイサービスそれぞれに利用されているご利用者さんの生活全般の介護をしています。より立体的にご利用さんの「今」を知るために、昔の品々を集めたスポットもあります。 |
給与 |
①205,000円~(例20歳専門新卒、介護福祉士・夜勤手当6回含む、※基本給は年齢・経験等を踏まえて決定)、処遇改善手当22,200円/月(H30年度4-9月度実續)、資格手当(介護福祉士手当20,000円/月、実務者研修8,000円/月、初任者研修5,000円/月)、住宅手当(賃貸借主23,000円/月、持家7,000円/月)、扶養手当(配偶者・子)等あり、交通費支給(規定による) ②1,080円/時、資格手当(介護福祉士は50円、実務者研修20円、初任者研修10円)、処遇改善手当別途支給、デイサービス運転手当(軽自動車3,000円/月、ワンボックスタイプ以上5,000円/月) ③990円/時、資格手当(介護福祉士は50円、実務者研修20円、初任者研修10円)、処遇改善手当別途支給、デイサービス運転手当(軽自動車3,000円/月、ワンボックスタイプ以上5,000円/月) |
勤務時間 | |
休日 |
①年間休日108日、(夏期休暇 4日(開園記念日1日含む) ②・③シフトにより |
資格 |
初任者研修修了者以上 普通自動車運転免許(デイサービスあれば尚可) |
ボーナス |
①賞与年3.7ケ月(考課あり、年齢、経験、能力により決定) |
夜勤 | 月5~6回程度 |
交通費 | 40,000円まで実費支給 |
社会保険 |
①雇用保険、社会保険、退職金共済、確定拠出年金 ②・③時間数により加入 |
車通勤 | |
昇給 | |
見学 | OK |
その他 |
他にもこんな施設・事業所があります
職員から「ウェルフェアリビングがあって良かった」と言ってもらえる施設を目指す。その積み重ねが、私たちの理念「丁寧な対応」の実現につながると信じて。
特別養護老人ホーム
湘南台・下飯田