「このままだと、良い人はみんな辞めてしまいますよ」
当時ユニットリーダーとして働いていた久保谷さんを慕う職員さんのひと言でした。5年前のはだの松寿苑は、ユニット型とは名ばかりの、殺風景で、今とは正反対の特別養護老人ホーム(以下、特養)でした。新しいことにはすぐに飛びついて始めてみても、見通しも目指すべきところも何もなかったのです。職員さんも目標が見つけられず迷走し、志がある職員さんから一人また一人と去っていきました。残って頑張って働いてくれている職員さんたちも不満を抱え、ギスギスとした不協和音が施設全体をどんよりと包んでいました。
そんな状況に耐え兼ね、もう限界に達していることを訴えてきた彼の言葉が、久保谷さんの目を覚ましました。
「このままではいけない。変わらないと」
気持ちを置いて去っていく職員さんをこれ以上見たくなかっただけかもしれません。変わろうと決めた久保谷さんは考え始めました。しかし、変わりたいと思っても、何から始めれば良いかも分からない手探り状態のスタートです。それならば、いっそのこと原点に戻ろう、はだの松寿苑を本物のユニット型特養にしようと誓ったのでした。
ビジョン(目標)が決まり、一から勉強する気持ちで、ユニットケア推進センターに登録し、実際にユニットケアが行われている施設へ研修に出かけました。そこで目にした介護はまさに、個別ケア、ご利用者さんの生活スタイルに職員さんが合わせたものでした。
起きたい時間に起きてもらう。
食べたい時間に食事をしてもらう。
お風呂はゆっくりと入り、洋服選びから濡れた髪を乾かすまで、ご利用者さんに1対1で関わる。
その当時のはだの松寿苑の介護とはあまりにも異なり、「そんなに介助量を増やしてどうするの・・・」と職員さんたちは不安を口にするようになりました。
しかし、職員さんに研修へ行って実際に見てきてもらうと、「できるかもしれない」と可能性を見出してくれたそうです。そうこうしながらも、施設全体に少しずつ考えが浸透してきましたが、その先の具体的なケアの方法や、肝心の介護の中身にまでなかなか手がつけられませんでした。
そんな折、ユニットケア推進センターの職員さんがはだの松寿苑を見学に訪れ、ユニットの入り口に飾られただけの、ほこりをかぶった花を見て、こう言いました。
「植物に水をやれない人が、(人を)ケアすることができると思いますか?」
返す言葉が見つからないほど、的を射た指摘でした。水を注いだり、太陽の光を浴びてもらったり、誰かが目をかけることこそが手入れであり、それは人間の個別ケアも同じなのです。
今度こそはと、ケアの内容を具体的に学び直しました。記録の取り方や様式ひとつにしても、職員全員を巻き込み、本物のユニットケアをするという旗印の元、職員さんはひとつになり始めました。
トップダウンで押しつけることなく、職員さん自らが考えて動いてもらえる土壌づくりに、副施設長になった久保谷さんは明け暮れました。一朝一夕でできるやり方を取らなかったので時間はかかりましたが、今となっては「チームワークが売りです」と言えるほど、職員さん同士がよりよいユニットを作ろうという想いを伝え合える職場になりました。
職員さんに向けたアンケートにおける「やりがいはありますか?」という問いに、80%の職員が「ある」と答えたのにはさすがに驚いたそうです。それでも現状に満足することなく、改善点は積極的に吸い上げ、行動に移していきます。
「私はね、はっちゃん。息子からも、お母さんじゃなくて『はっちゃん』って呼ばれているよ」
はっちゃんは、下駄と傘以外はなんでも売っている地元の商店の看板娘だったと言います。
取材の間中、見ていて気持ち良いくらい大きな口を開けて笑います。横に映るのは職員の久保寺さん。はっちゃんにつられて目じりが下がります。
「どうしてはだの松寿苑で働いているのですか?」という唐突な質問に、「やはりお年寄りが好きだからですね。ここはゆっくりと話せる時間がありますから」と迷いなく答えてくれました。
おっとりとした話し方に隠れている、まっすぐな強さが見えました。ふたりの笑い声はユニット中を駆け巡り、他の利用者さんたちもそっとその輪に溶け込んでいます。
ユニットはひとつの家です。
やまゆりユニットの入り口には、美味しい手作りお菓子を作っている人が出てきそうだなぁと想像させるほど、家庭的な雰囲気が醸し出されています。中に入っていくと、(普通の施設であれば危ないからとキッチンの中にしまい込まれている)冷蔵庫も電子レンジもポットですら、ご利用者さんが触れることができるところに置いてあります。
二人掛けソファーがいくつも点在し、本棚などによって半分は人目を避けられるつくりになっています。ご利用者さんそれぞれの居場所がリビングにもあるのです。居室を見せてもらうと、ナースコールが鳴ると光る居室の上のライトまでもが、ステンドガラス風の飾りで覆ってありました。
「だって、家にこんなものないでしょ」と、やまゆりユニットの職員さんは言います。病院のようなものはなくしてしまおう。そう、たしかに我が家には、それぞれにくつろぐ特等席や思い出の詰まった写真、お気に入りの本などが置いてあるはずです。
どこを見ても目にとまるぐらい、ドライフラワーが飾られています。ご利用者さんのご家族からいただいた花束を大事に枯らし、もう一度役割を持たせているのです。葉の一枚一枚を青々とさせた観葉植物が茂っていて、もう、ほこりなんて被っていません。
生活感が溢れていて、ここが施設だなんて忘れてしまいそうです。教えてもらうまで気づかなったのですが、よく洗面台に職員さん用に貼ってある手洗いの手順書。あれもありませんでした。
はだの松寿苑には、人が集まるしかけがたくさんあります。たとえばこの売店。施設に入ったところのエントランスにあります。
お菓子や飲み物、同法人の障害者施設「松下園」で作られた布製品など。手の部分がクリップになっている猫のあまりの可愛らしさに、ついお土産にと手が伸びてしまいます。
近くの畑で収穫された野菜も販売されています。帰りにはもう売り切れてしまっていたので買えませんでしたが、人参の色が鮮やかで、さぞかし味も濃いのだろうと想像できます。
グリーンカーテンとして育てているのはなんと、ぶどう。伸びすぎないようにツルを剪定したり、実に袋をかぶせたりと、農家さながらの手のかけよう。保育園児さんが収穫にきてくれたりするそうです。
地域の中学生をボランティアとして受け入れています。あの有名な藤井棋士ではありませんが、孫ほどの年齢の中学生棋士と指す将棋は、また新鮮な戦いになるのでしょう。盤の上では歳の差は関係ありません。
「はだの松寿苑を訪れてくれた人が教えてくれることは、とても貴重です」
と久保谷さんは言います。
介護施設は閉じられた場所になりやすく、そこで働いている職員さんも、その場所のやり方に気づかないうちに染まってしまっていたりするものです。そこでやってきてくれたお客さんが気づいてくれることは、はだの松寿苑がもっとよい施設になるためには大きな糧になります。気づきを受け止め、改良していこうとする謙虚な姿勢があればこそ、ここまで変わることができたのではないでしょうか。
はだの松寿苑の目指している本物のユニットケアとは、ご利用者さんひとり一人への個別ケアの追及なのだと感じます。住み慣れた我が家を泣く泣く離れ、はだの松寿苑に引っ越してきてくれたご利用者さんの暮らしを継続させる。
その方がどのように生きてきたのか、なにを大事に思うのか、その方の暮らしにはあらゆる歴史や希望が凝縮されています。施設に入ったからといって無理やり変えてしまうのではなく、我が家に居た頃と変わらない暮らしをしてもらいたい。今のはだの松寿苑にはたしかなビジョンがあるのです。
施設・事業所名称 | 特別養護老人ホーム はだの松寿苑 |
サービス形態 | 特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス |
勤務場所 | 神奈川県秦野市戸川381-12 |
最寄り駅・アクセス |
J渋沢駅北口よりバス菩提経由秦野駅行 平和橋下車徒歩5分 |
募集職種 | 介護職 |
雇用形態 | ①正職員②パート |
仕事内容 | 入居では、介護業界の中で先進的な個別ケアを実践しています。リーダークラスを対象とした研修施設として、関東圏内の老人ホームにケア方法を発信する役割を担っています。食事、入浴、排泄介助及び、話し相手、その他生活を支援しています。 |
給与 |
①基本給166,300円~230,000円 変則手当10,000円/月(夜勤勤務者)、夜勤手当5,500円/回、住宅手当3,000円/持家、15,000円/賃貸、 扶養手当13,000円/扶養配偶者、5,500円/子供2人まで1人につき・3人目以降3,500円、(配偶者なし10,500円、2人目5,500円) ②950円~(初任者研修)、970円~(実務者研修) |
勤務時間 |
7:00~16:00、10;00~19:00、13:00~22:00、 22:00~翌7:00 |
休日 |
年間116日 |
資格 | 初任者研修修了者以上 |
ボーナス |
①年2回合計3.6カ月分支給(前年度実績) 期末調整手当(処遇改善加算含む)100,000円~/年間(前年度実績) |
夜勤 | ①月平均3~4回 夜勤手当5,500円/回 |
交通費 | 実費30,000円/月まで支給 |
社会保険 |
雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金、退職金共済 |
車通勤 | 可(駐車場代として正職員2,000円、パート1,000円月にかかります) |
昇給 | あり |
選考基準・プロセス | 面接にお越しください |
見学 | OK |
その他 |
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